【イーブン・ア・ペニー・テクニック】聞いてもらいやすいお願いの方法

スクールソーシャルワーカーだより スクールソーシャルワーカーだより

2023年10月号

今回のテーマは「イーブン・ア・ペニー・テクニック」です。これは営業マンの人たちがよく使っている技術で、子どもに何か指示したりお願いしたりするときにも応用することができます。

イーブン・ア・ペニー・テクニックとは

「イーブン・ア・ペニー」とは、「1ペニーだけ」という意味です。ペニーはイギリスの硬貨で、日本だと50円玉といった感覚です。寄附を募る際に「1ペニーだけでいいので」とお願いするところから、「イーブン・ア・ペニー・テクニック」という名前が付けられました。

要するにイーブン・ア・ペニー・テクニックとは、「こちらの願いをすべて聞き届けてもらおうとせず、ハードルが低いお願いをすることによって、相手から少しでも望ましい行動を引き出す」という方法です。たとえば、

元々の願いイーブン・ア・ペニーの表現
にんじんを全部食べてほしい。 じゃあ、この1切れだけでいいよ。
部屋を全部片付けてほしい。一緒にここの本だけ本棚に戻そうよ。
早く着替えを済ませてほしい。シャツに頭だけ通して。
とっとと宿題を終わらせてほしい。まず漢字の書き取り5分だけやろうか。

ただ、「えー、宿題5分じゃなくて、全部やってもらいたいんですけど」などという声が聞こえてきそうです。確かにその通り。しかし、イーブン・ア・ペニー・テクニックでは、まずはほんの少しでいいから望ましい行動を引き出すことを目指すのです。ただし、これは第一歩に過ぎません。

ほんの少しであっても望ましい行動を始めることが、さらなる望ましい行動を引き出すきっかけになるからです。その理由を知るために「やる気」が出るカラクリについてお話ししましょう。

やる気を出すには、とにかく始めること

学習塾のCMで「やる気スイッチ」というワードが注目されたことがあります。実際のやる気スイッチはどこにあるかというと、脳の「側坐核」という部分です。ここが刺激されるとドーパミンという物質が放出され、幸福感や集中力ややる気が湧き上がってきます。

では、側坐核を刺激するにはどうしたらいいのでしょうか。その1つの方法が「とにかく始めてみる」ことなのです。保護者の皆さんも、仕事や家事をするのが面倒くさくても、とりあえず始めてみたら最後まで頑張れてしまったということを経験していらっしゃると思います。それは行動することによってドーパミンが放出され、やる気が生まれたからです。

 イーブン・ア・ペニー・テクニックは、この原理を応用しています。本当の要求はチョモランマのように高いけれど、それは脇に置いてまずはこの小さな第一歩を踏み出してみてとお願いしてみる。あるいは一緒にその小さな行動をやってみる。それによって子どもはやる気を引き出され、思いのほか望ましい行動をしてくれるようになっていきます。

承認と感謝と喜びを忘れずに

お子さんやほかの人に使う前に、まずはご自分に使ってみてください。面倒くさいけれどやらなければならないことがあったとき、あれこれ考えずに「5・4・3・2・1」とカウントダウンし、「0!」で行動に移すのです。そして、5分でいいので続けます。

やってみると2つのことが理解できると思います。1つは「本当に、とりあえず始めてみたら結構続けられる」ということ。そしてもう1つは、こうやって小さな一歩を踏み出すことでさえ、自分一人だけでやろうとすると心理的な抵抗がものすごいということ。

イーブン・ア・ペニー・テクニックを使ってお子さんが小さなお願いを聞いて行動を始めてくれたとしたら、それはお子さんがものすごいことを達成したということです。ですから、その小さくて大きな一歩をぜひ認めてあげてください。「できたね!」と。そして「ありがとう」と感謝したり「うれしい」と喜んだりしましょう。

そうやって認められたり感謝されたり喜ばれたりすることもまた、側座核を刺激してドーパミンを大量に放出させ、さらなるやる気を引き出します。

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