【罰と報酬】オオカミ少年とワシントン

スクールソーシャルワーカーだより スクールソーシャルワーカーだより

2014年3月号

今回は子どものしつけでよく用いる「罰」と「報酬」(ごほうび)の効果について考えます。罰や報酬は効果があるのでしょうか。あるとしたら、どんな与え方をすればいいのでしょうか。

嘘をやめさせる実験

アメリカでこんな実験が行われました。それは、子どもたちを2つのグループに分け、それぞれ嘘に関する違う話を聞かせるというものです。

グループAにしたのは、オオカミ少年の話。「オオカミが来た!」と嘘を言っては村の大人たちをからかっていた少年がいました。あるとき、本当にオオカミがやってきましたが、「オオカミが来た!」という彼の叫びに、村の大人たちは誰も耳を傾けず、とうとう少年は狼に食べられてしまいましたとさ、という話です。

グループBには、アメリカ初代大統領ジョージ・ワシントンが子どもの頃の話(史実ではなく、後世の創作だそうですが)。ジョージ少年が、父親が大切にしていた桜の木をいたずらで切り倒してしまいました。しかし、その後反省して自分から父親に罪の告白をしたところ、「お前のその正直さの方が、千本の桜の木よりも私は嬉しい」とほめられました。

その後の追跡調査の結果はこうです。

  • オオカミ少年の話を聞かされた子どもたちの場合、嘘は減らないどころか、かえってより巧妙に嘘をつくようになりました。
  • ワシントンの桜の木の話を聞かされた子どもたちの親の多く(43%)が、「子どもたちの嘘が減りました」と回答しました。

この実験結果は、何を意味しているのか

(1) 何をすべきでないかでなく、何をすべきかを語ろう

「嘘をつかないようにしよう」という言い方も、「自分の過ちは正直に認めよう」という言い方も、同じことをしつけようとしています。オオカミ少年の話をするのは前者、ワシントンの話をするのは後者の伝え方ですね。

何をすべきでないかを伝えるよりも、何をすべきかを伝えた方が、子どもたちにはよりストレートに伝わります。「おしゃべりするな」ではなく「口を閉じて、こちらを見て話を聞いて」、「だらだら歩くな」ではなく「走って集合しよう」、「遅れないでね」ではなく「1時5分前に来てね」というふうに。

また、あまり禁止命令ばかり語っていると、子どもたちは慣れっこになってしまって、本当に禁止しなければならないこと(自他の生命や財産に重大な影響を与えるような行為)までも、軽く受け流すようになってしまいます。

ですから、できるだけ「~しようね」という肯定的な指示の仕方をするよう努めましょう。

(2) 罰より報酬が効果的

また、オオカミ少年の話は「罰をちらつかせて脅すしつけ法」、ワシントンの話は「報酬を示してやる気を引き出すしつけ法」ということができます。

望ましくない行動をすると罰を与えたり、罰を与えるぞと脅したりするしつけは、短期的には効果があるように見えます(ですから多用されます)。しかし、多くの心理学的な調査や実験で、深刻な副作用が指摘されています。たとえば、

  • 将来うつ病などの精神的な病にかかるリスクが高まる
  • 萎縮して意欲を失い、自発的に行動できなくなる(いわゆる指示待ち人間です)
  • 罰を与える怖い人が監視していないと、すぐに不適切な行動に戻ってしまう

今回の調査のように、より巧妙に嘘をつくとか、ばれないようにうまくやろうとするとかいう、的外れな行動を身に着けてしまうのも、副作用の一つです。

一方、望ましい行動をとったときに報酬が与えられるというしつけ方は、罰を使ったしつけよりは副作用がありません。

物質的な報酬でなく、心理的な報酬を

ただし、この場合の報酬は、小遣いとかプレゼントとかの物質的なものでなく、ほめ言葉をかけたり、抱きしめたり、一緒になって喜んだりする心理的な報酬の方がいいです。

小遣いなどの物質的報酬でしつけようとすると、次第に慣れていくため、どんどんと金額やグレードをアップしていかないと効かなくなります。また、小遣いをもらえないことはしなくなるという副作用も生じますので。

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