2011年3月号
今回は、何かを依頼しても応じてもらえない問題について解説します。もしかしたら「社会的手抜き」が起こっているせいかもしれません。
そして誰も通報してくれなかった
アメリカでの話です。女性が住宅街の通りで殺されるという事件が起こりました。
捜査の結果分かったことですが、実は、この女性は同じ犯人に2度襲撃されています。最初の時、女性が大声を出したので、驚いた犯人はその場から逃走しようとしました。ところが、誰も出てこなかったため、犯人は戻ってきて女性を殺害したのでした。
警察が捜査したところ、かなりの数の住民が女性の最初の叫び声を聞いていました。ところが、誰一人として表を確認したり、警察に通報したりしなかったのです。通報しなかった理由を問われた住民たちは、口々に言いました。
誰かが通報するだろうと思っていた。
一人でも警察に通報していたら、おそらく防げた殺人事件。なぜこんなことが起こってしまったのでしょう。
綱引き実験
こんな実験があります。1対1で綱引きをしてもらいます。被験者には機械を装着して、どれだけの力を出したかを計測します。次に、5対5、10対10というふうに、参加する人数を増やしていきます。
すると、人数が増えるごとに、「1人あたりの力」が小さくなることが分かりました。つまり、「手抜き」が起こったわけです。
そこには
- 自分がやらなくても、誰かがやるだろう
- 自分1人くらい手を抜いても、全体には影響しないだろう
という心理が働いていると考えられます。先ほど紹介した事件の住民と似ていますね。
このように、たくさんの人がいるときに、無責任・無関心な態度や手抜きなどが起こる現象を、「社会的手抜き」と言います。
誰か手伝ってよ
ある奥さまがぷりぷり怒っていらっしゃるので理由を尋ねました。すると、「食事のあと、私が食器を洗ったり、洗濯物をたたんだりして忙しくしているとき、旦那も子どもたちも、同じ部屋にいてテレビを見てゲラゲラ笑っている。まったく、手伝おうっていう気持ちがないのかしら」とおっしゃいます。
その怒りをしばらくお聴きしたあとで、「手伝うようにおっしゃらないのですか?」と尋ねてみると、「もちろん言ってます」。「どんなふうに?」とさらに尋ねると、
誰か手伝ってよ!
おもしろいテレビに集中していると、お母さんの声が聞こえないこともあります。そのようなときには、その場で何を言っても無駄なので、あらかじめ(この場合は、食事の前がいいでしょう)、何を手伝って欲しいかを家族にお願いしておく必要があります。
そして、仮に聞こえていたとしても、あるいは事前にお願いしたとしても、「誰か手伝って」という言い方では、先ほど申し上げた社会的手抜きが働いて、「他の誰でもなく、この自分が手伝いを求められているのだ」という意識が希薄になります。そこでやっぱり動かない。
社会的手抜きを起こさない方法
子育てでも、教育でも、商売でも、他の人に何かをしてもらいたいときには、社会的手抜きを引き起こさないために、次の2点を心がけましょう。
- 個人的に名前を呼ぶ
- 何をして欲しいか、具体的に説明する
たとえば、
あなた、シンクにつけてある食器を全部洗って、乾燥機に入れてちょうだい。
スイッチは入れなくていいから。
花子は洗濯物を最後までたたむのを手伝って。
太郎は居間のストーブに灯油を入れてきて、終わったら洗濯物たたみに加わってね。
というふうに。
原因が他にある場合も
もちろん、社会的手抜きの心理だけが、人がこちらの願い通りに動いてくれない理由ではありません。たとえば、命令調や説教調で伝えたとしたら、相手は反発して「そういう言い方をするんだったら、絶対手伝ってやるもんか」と思ってしまうかもしれませんね。あるいは、12月号でお話しした「マイナスのストローク集め」や「復讐」が起こっているのかもしれません。
ですから、この方法を使ったからといって、確実に手伝ってもらえるとは限りません。しかし、これまでこの「スクールソーシャルワーカーだより」でお話ししたようなコミュニケーションの方法を実践しながら、さらに「個人的に、そして具体的にお願いする」という方法を試してみてください。きっと効果を実感なさるはずです。
それでは、来年度もよろしくお願いします。
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