転ばぬ先の杖は子どもから力を奪う その2

スクールソーシャルワーカーだより スクールソーシャルワーカーだより

2015年2月号

今回も、「転ばぬ先の杖」の問題についてお話しします。

連絡しろよ

前回のお話は、思いの外たくさんの反響をいただきました。

いただいた反響の中には「Aさんの息子さんも悪い」という意見もありました。夕食を家で食べるか食べないか、息子さんの方から連絡すべきだったという意見です。連絡をくれないから、お母さんは夕食を用意しなきゃいけなかったんでしょうが、と。

この意見を下さったのは全員お母さんですが、きっと旦那さんやお子さんたちについて、同じような苦労をしていらっしゃるのでしょうね。確かに主婦の立場からすれば全くその通りだと、私も思います。

連絡する力を育てられていなかった

ただ、「夕食を家で食べるかどうかを連絡すべきだ」ということを、息子さんはこれまで誰からも教わってこなかったということにも留意しなければなりません。なぜなら、そういう判断も含めて、Aさんが全部代行してきたからです。

すなわち、「誰かに何かをして欲しかったら(あるいはして欲しくなかったら)、こちらから理由や状況を説明してお願いしなければならない」という、自立した人間なら当たり前にできなければならないことを、これまで教えられてこなかったし、しなくても済んできたということです。

「転ばぬ先の杖」をつきすぎる教育の恐ろしさが、ここにあります。

余計なお世話は逆らいにくい

Aさんの家庭状況を知っている人の多くが、「息子さんが引きこもったのは、父親や祖母によって家庭内が緊張状態だったことが影響している」と考えることでしょう。けなげに息子さんを支え続けるAさんの影響を考える人はまずいません。むしろ、愛情深い母親として肯定的に評価する人がほとんどでしょう。

ということは、Aさんからの余計なお世話に対して、たとえ息子さんが嫌だと思ったとしても、断りにくいことになります。そんなことをすれば、息子さんの方が「恩知らず」と世間から思われてしまうかも知れませんから。これも「転ばぬ先の杖」の怖いところです。

それでも反発できたわけ

にもかかわらず、息子さんはAさんに抗議しました。これはAさんも認めておられる通り、息子さんの成長の証です。

父親や祖母によって家庭内が緊張に満ちた雰囲気だったおかげで、これまで息子さんは嫌なことがあってもいっさい口にせず我慢してきました。その結果、精神的なエネルギーが消耗し、戦いの場である学校や社会に出て行く力がわいてこなかったわけです。そんな彼が、たとえ自分にも非があるとはいえ、嫌なことを嫌だと言えたのは大した成長です。

もちろん息子さんは、お母さんであるAさんよりも、横暴な父親やねちっこい祖母に対してより深い不満や怒りを感じています。しかし、この二人に逆らうようなことをすれば大変な反発が待っていることでしょう。それに対抗するだけの力はまだ育っていません。

しかし、母親であるAさんはとても精神的に強くなったので、自分が不満をぶつけても逆ギレしたり倒れてしまったりしないと息子さんは感じたのでしょう。だから、まずAさんに自己主張してみたのです。これは成長の証です。そして、その力を息子さんから引き出したのは、Aさんです。

愛情たっぷりに、そして科学的に

子どもたちを心から愛している親や周りの大人たちは、子どもたちのために、できる限り何でもしてやりたいと願うものです。これを読んでいらっしゃるあなたも、きっとそうでしょう。

ただ、いつも実行する前に考えていただきたいことは、「その行動をすると、どんな効果がありますか?」ということです。その行動は、本当に「子どものため」になっているでしょうか。

「私がどうしたいか」という自己満足や、「きっと子どものためになっているはずだ」という一方的な思い込みでは意味がありません。今やろうとしていることは、本当に子どもが自立し、自分で問題を解決していけるような知恵や能力を身につけるのに効果がある方法でしょうか。

それを客観的に、科学的に、冷静に考えましょう。科学的なんていうと、ちょっと冷たい感じがしますが、あなたの愛情はすでに十分なんですから。

ですから、愛情たっぷりに、そして科学的に、子どもたちに対する行動を考えましょう。

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