2023年11月号
今回はピグマリオン効果について解説します。大人の私たちが子どもたちに良い影響を与えるにはどうしたらいいかというお話です。
落ちこぼれの天使たち
1987年に公開されたアメリカ映画「落ちこぼれの天使たち」(原題:STAND AND DELIVER)を知人に紹介してもらいました。このストーリーは実話が元になっているとか。
主人公はエスカランテという数学教師。彼が赴任した高校は非常に荒れていました。授業をしようとしても、最初はほとんどの生徒が好き勝手に騒いでまったく話を聴いてくれません。しかし、エスカランテ先生は生徒たちに数学の魅力を知ってもらおうと授業をいろいろと工夫したり、生徒たちと本気で向き合ったりします。すると、やがてみんなが熱心に授業を受けるようになり、多くの学生が微積分の認定試験で高得点をマークするまでになりました。
この物語の中にジョニーという名の生徒が2人登場します。1人は真面目で成績も良いクラスの人気者、もう一人はいわゆる問題児です。ある日行なわれた保護者懇談会の後、一人の母親がエスカランテ先生を捕まえて尋ねました。
先生、うちのジョニーはどうですか?
すると、先生は母親に言いました。
息子さんがうちのクラスにいてくれることを、私はとても喜んでいます。
ジョニーの存在を私は本当に感謝しているのです。
翌日、問題児の方のジョニーがエスカランテ先生のところに来て、目を輝かせながら言いました。「母から先生の言葉を聞きました。これまで僕の存在を喜んでくれた教師はいませんでした」。そう、先生はあの母親の息子が真面目なジョニーの方だと勘違いしていたのです。
しかし、それから問題児ジョニーの態度は激変しました。授業や宿題に真剣に取り組むようになり、素行も改まります。もう一人のジョニーと同様に、真面目で熱心な生徒になったのでした。
ピグマリオン効果
心理学者ローゼンタールは、「教師が生徒に期待していることを生徒が感じ取ると、生徒はその期待に応えようとし、結果的に学習や運動、作業などの結果が良くなる」ことを明らかにしました。この現象は、「ピグマリオン効果」とか「ローゼンタール効果」と呼ばれています。
しかもその期待というのは、「これからこうなってほしい」という単なる願望ではありません。「この子にはそうなる力がすでに備わっている。だから必ずそうなるはずだ」という信頼に基づくものでなければなりません。
今のこの子はどんな子?
子どもを見ていて、「この子、もっとパッパと身支度してくれたらいいのになぁ」「言われなくても宿題を終わらせてほしいなぁ」「お友だちに優しくしてほしいなぁ」と思うことがあります。しかし、そう思っている私は「今のこの子はそうじゃない」と評価していることになりますね。
その評価は、たとえはっきり表現しなくても私たちの表情や言い方などで子どもに伝わります。そして子どもは素直ですから、その評価通りにますますグズで不真面目で乱暴になるのです。
映画の問題児ジョニーは、「自分がこれから素晴らしい生徒になることを期待されている」のではなく、「自分はすでに素晴らしい生徒だと思われている」と感じました。そして、先生が評価してくれた通りの人間でいよう、いやもっとそれに磨きをかけようとして、2人目の真面目なジョニーに成長したのです。
ですから、
- この子はすぐ身支度できる子だ。だから、これからもっと素早く身支度できるようになる。
- この子は勉強が大好きな子だ。だから、これからますます自発的に宿題をするようになる。
- この子は優しい子だ。だから、もっとお友だちとのやり取りが上手になる。
そのような捉え方をしましょう。そして、それを子どもにどんどん伝えていきましょう。
子どもは、私たちの期待に応えようとします。そして子どもは、私たちの今の評価どおりでいようとします。私たちは、大切な子どもについて、本音のところでどんなふうに評価し、またどんなふうに期待をかけているでしょうか? じっくりと考えてみましょう。
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