2011年2月号
親子や夫婦、あるいは職場や地域での豊かなコミュニケーションをじゃまするものがあります。その一つは、甘えです。
どういうことかというと、「私がいちいち確認したり、説明したりしなくても分かってよ」「言わなくても、それくらい分かるでしょう?」というふうに、相手にだけ期待し、自分は変わろうとしない態度ですね。
日本には、以心伝心という良き伝統があります。「一を聞いて十を知る」で、いちいちすべてを言葉で表現しなくても、お互いの気持ちや言いたいことが分かり合えるということです。
しかし、価値観が多様化し、通信・交通が発達して、様々な場所に住む人たちが交流する現代では、以心伝心はなかなか成り立たなくなりました。言葉にしなくても共通理解が成立するためには、「双方の文化」が同じでなければならないからです。
そんなのあり得ない
「月の砂漠」という歌をご存じでしょうか。この歌は、王子さまとお姫さまが、おぼろ月夜の光の中を、ラクダに乗ってデートしている場面を描いたものです。
4番
作詞:加藤まさを
ひろい砂漠を ひとすじに
二人はどこへ いくのでしょう
おぼろにけぶる 月の夜を
対のらくだで とぼとぼと
砂丘を越えて 行きました
だまって越えて 行きました
さて、あなたは、「おぼろ月夜のデート」という言葉からどんなムードを想像なさいますか? こうこうと明るいわけでもなく、真っ暗闇でもなく、お互いの顔がぼんやりと判別できるような明るさです。間接照明のレストランでデートしているような、何となくいいムードを想像なさったのではないでしょうか。
しかし、サウジアラビア出身の留学生がこの歌を聴いたとき、「こんなの絶対にあり得ない」と言ったそうです。
おぼろ月夜というのは、日本では春先に多く見られる気象現象ですが、空気中の水蒸気が多いために、月がかすんで見えるのです。でも、舞台は砂漠。水蒸気なんてほとんどありませんものね。
ただ、水蒸気が原因ではないけれど、月がかすんで見える現象自体はあるそうです。それは砂嵐の夜。「おぼろ月夜のデート」はいいムード、なんてとんでもない。一刻も早くキャンプに戻らなければと、ラクダを全力疾走させている、命がけのデートなのです!
いずれにしても、砂漠において、「おぼろ月夜にいいムードでデート」なんてあり得ないことだと、サウジの留学生は言ったのでした。このように、同じ「おぼろにけぶる月の夜」という言葉でも、文化が違えば全く解釈が変わってしまいます。
節約するなら、言葉ではなくお金
現代は、同じ町に住んでいても(いや、同じ家に住んでいても)、私たちは文化のギャップを感じますね。ですから、「一を聞いて十を知る」というような、言葉を節約するやり方では、今はなかなかコミュニケーションが成り立たなくなってしまいました。
そこで、面倒くさくても、「何をして欲しいのか」「それはなぜなのか」を相手にきちんと言葉で説明しないといけないし、相手の言葉を聞いたとき、お手軽に分かったつもりにならないで、相手の真意を確認しなければならないのですね。
最近、言葉が通じていないなと悩んでいらっしゃったとしたら、ほんの少しでいいですから、「言わなくても分かる」ではなく、
- 「言わないと分からない」
- 「言ったとしても、分かってもらうのは大変」
だから、
- 「どうしたら分かってもらえるだろうか?」
- 「本当に相手が言いたいことはこれなんだろうか?」
……そう思いながら会話をしてみてください。
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