2016年5月号
今回は「認知的不協和」を使って自分の好感度を上げる方法を紹介します。
誰しも、人に嫌われるよりは、好かれた方がうれしいですね、特に我が子や教え子には。今回は、好感度をアップしたければ、他の人にお願いして助けてもらうといいですよ、という話です。
認知的不協和
スティンガーという心理学者が、「認知的不協和」という用語を作りました。これは、人が自分の今までの行動や信念と矛盾する新しい事実を突きつけられたとき、心の中に感じる不快感のことです。
その不快感を解消するには、これまでの行動や信念の方を変えるか、さもなければ新しい事実の方を強引に否定して、これまでの行動や信念を持ち続けるかしなければなりません。そして、古い行動や信念を変えることが難しい場合、人は新しい事実を無理矢理否定する道を選ぼうとします。
禁煙のケース
例を挙げた方が分かりやすいですね。ヘビースモーカーのAさんが、「喫煙者は、肺がんになるリスクがそうでない人よりも5倍高い」という話を医者から聞いたとします。自分も肺がんになるかも知れないという不安を少しでも下げたいなら、禁煙するのが一番ですね。ところが、すでに重度のニコチン依存状態に陥っているAさんは、禁煙を実行したくありません。
ここで「健康のためにはタバコはやめた方がいい」という考えと、「自分はタバコをやめたくない」という気持ちが矛盾し、Aさんは不快な精神状態になります。これが認知的不協和です。この不快な状態を解消するために、Aさんはたとえばこんなことを考えて、喫煙を続けようとします。
「でも、喫煙者で長寿な人もたくさんいる」
→ だから、きっと自分も大丈夫だ。
→ 吸い続けよう。
「でも、タバコで肺がんになる確率より、交通事故に遭う確率の方が高い」。
→ だから、禁煙して肺がんリスクを減らしても無駄だ。
→ 禁煙なんて無駄なことはしないぞ。
カルトのケース
スティンガーは、もっと深刻なケースも報告しています。
あるカルト教団の教祖は、「○○年○月○日の夜明け前に大洪水が発生して世界は滅亡する」と予言し、救われたければこの教団に入れと教えていました。ところが、その日の朝、大洪水は起きませんでした。ですから、多くの信者が幻滅して教団を去っただろうと思いますね? ところが、ほとんどの信者が教団に留まったばかりか、より熱心に教団の活動に入れ込むようになりました。
彼らは「私は、教祖の教えを真実だと信じる」という信念と、「しかし、教祖の予言は外れた」という事実の間に生まれた認知的不協和を解消するために、つらいけれど「自分はだまされていた」と認めて最初の信念を捨てる代わりに、「お教祖様の祈りに答えて、神が大洪水を防いでくれた。やっぱりこの教団はすごい!」と信じる方を選んだのです。
助けを求めると好感度が上がる
さて、以上を踏まえて今回のテーマの内容です。
多くの人は、「普通、好きな人や気に入っている人には親切にするものだ」と思っています。これは別におかしな考えではありませんね?
ところが、特に何も思っていなかった人に頼まれて、何か親切な行為をすると、「あれ? 別に好きでもない人に、どうして自分は親切にしたんだろう」と、ちょっとした認知的不協和の状態に陥ります。
そして、それを解消するために、「そうか、本当は、僕はこの人のことを気に入っていたんだ」と思うようになります。その結果、相手に対する好意の度合いが本当にアップしてしまうのです。少なくとも、嫌いだとは思いにくくなります。
ですから、自分の好感度を上げたければ、思い切って助けを求めてお願いしてみることです。何でも自分一人で抱え込んでやってしまう人より、素直に助けを求める人の方が、周りの人に好かれます。
マナーは当然必要
もちろん、助けてもらったら、心から感謝を表しましょう。また、頼るといっても、あまり依存的になり過ぎて、何でもかんでも他人に押しつけるのは逆効果です。「してもらって当然」という高飛車な態度で感謝もなしだったり、お願いが過剰になり過ぎたりすると、上述のような認知的不協和が起こる前に、「こいつ、嫌い」「関わると面倒」と強烈に思わせてしまいますので、当然のマナーは大切に。
前回、お子さんにも家事を分担しようという話をしました。決められたお手伝いの他にも、臨時でいろいろなことをお願いしてみましょう。そして、手伝ってくれたことに対して、お子さんに心から喜びと感謝を表しましょう。それにより、お子さんたちは、お父さんやお母さん、おじいちゃんやおばあちゃんのことを、もっともっと好きになってくれるはずです。
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