お願いを聞いてもらえないとき

スクールソーシャルワーカーだより スクールソーシャルワーカーだより

2023年9月号

前回7月号で、子どもに何か行動してほしいとき、あるいは行動を変えてもらいたいときは、理由を添えてお願いしてみようということを申し上げました。ただ、実際にやってみてうまくいかないことがあります。今回はその理由を一緒に考えましょう。

理由1:子どもにそうしたくない理由がある

前回も申し上げましたが、子どもには自由意志があります。「馬を水辺に連れて行くことはできても、水を飲ませることはできない」(つまり、飲むかどうかは馬次第)ということわざがあるように、子どもの意思を無視して何かを強制することはなかなか大変です。

こちらのお願いを聞いてもらえない場合、子どもなりにそうしたくない理由があるのかもしれません。友だちやきょうだいを叩くとか、約束を守らないとかいう、どう見ても良くない行動をしたとしても、必ずその子にはその子なりの理由があります。まずはその理由を優しく尋ねてみてください。

たとえその理由が自己中心的だったり、非合理的だったりしたとしても、頭ごなしに否定しないで最後までじっくり聴きましょう。そして、「なるほどね。だからやりたくないんだね」といったん理解を示します。

その上で、「そんなことが続くと、友だちに嫌がられて孤立すると思う」「将来なりたい仕事が見つかったときに、学力が足りなくて断念しないといけなくなるかも」など、その子にとってのリスクを伝えたり、「あなたのことが大切だから、そんなことになったら父さん/お母さんは悲しい」とか「あなたが使ったおもちゃや文房具を、私が片付けなきゃならなくなるのは納得いかないなぁ」とかいうふうに自分の気持ちを伝えたりしながら、こちらが考える適切な行動を選ぶよう交渉します。

大人が一方的に自分の思いを通すか、子どもが一方的に自分の思いを通すかという「勝つか負けるか」ではなく、どちらも納得できる答えを一緒に考えられるといいですね(話し合いの結果、100%大人の言うとおりになったり、100%子どもが願うとおりになったりすることはあり得ます)。

理由2:信頼関係が不十分

信頼関係が充分構築されていなければ、どんなにもっともな理由を添えてお願いしたとしても聴いてもらいにくいでしょう。親子だから信頼関係が無条件で成立するわけではありません。普段のやり取りの中で、子どもに信頼される言動を大人がしていることが大切です。

カウンセラーの新井輝一さんが、Instagramの中でNGな会話の例を挙げておられます。

子

このご飯、あんまり美味しくない。

親

そう?じゃあ、ふりかけをかけてみる?

子

いらない。

親

じゃあ、味付け変えてみよっか。

子どもの味覚は大人の味覚とは違います。ですから大人がおいしいと感じるものが子どもにとってはまずいと感じる場合もあります。それを無視して、つまり子どもの訴えを無視して、一方的に大人が自分の考えや願いを伝えてしまうと、子どもは「この人は私の話を聴いてくれない」と思い、やがて話をしてくれなくなることでしょう。さらには、「話を聴いてくれないこの人の話なんか聴いてやるもんか」という反発を覚えるようになるのです。

私たち大人も、こちらの言い分をまったく聴かないで、一方的にアドバイスしたり責めたりする人は、ちょっとお付き合いを勘弁願いたいですよね? 大人の対応として、その人と話をしたり、願いを聞いてあげたりすることがあったとしても、心から喜んでそうしたいわけではありません。まして小さな子どもにそのような大人の対応を求めることはできません。

最後まで聴いて、気持ちを受け止めよう

ですから、「そっかぁ。美味しくないって感じるんだね?」というふうに受け止めたり、「どういうところがいや?」「どんなご飯だったら美味しく食べられそう?」というふうに子どもの気持ちに寄り添うような質問を交えたりしながら、子どもの発言を最後まで聴きましょう。

それは子どもの言い分を全部認めて、何でも子どもの言う通りにするという意味ではありません(そんなことをしたら、子どもは社会性を学べません)。最後まで聴いて、子どもの気持ちを受け止める。それからこちらの提案やお願いを話すということです。「この人のお願いだったら、喜んで聞きたい」。子どもにそう思ってもらえる大人を目指しましょう。

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