返報性の原則による人間関係の改善

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2018年1月号

小中学生になると、親との関係よりも友だちとの関係の方が、本人にとって重要になってきます。しかし、それだけ友だちとの関係は悩みの種にもなりがちです。

人の気持ちを全く考えないというのはちょっと困りますが、逆にあまりにも他人の気持ちを考えすぎて、「自分はあの子に嫌われているんじゃないか」と勝手に思い込んで悩みを深める子どもが、最近とみに増えてきた気がします。

今回は、人間関係を良くするための秘訣である「返報性の原則」を紹介します。ご自分でも実践なさるとともに、お子さんにも紹介してみてください。

返報性の実験

心理学者デニス・リーガン博士が、美術館を舞台にしたこんな実験を行ないました。まず、被験者を2つのグループに分けます。そして、それぞれ2人一組にして、美術館に展示されている作品を評価するという作業を行なってもらいました。ところが、2人のうち1人は、博士が用意したサクラです。

さて、グループAでは、サクラは特に何もせず、淡々と作業をこなします。一方、グループBでは、サクラは休憩時間にジュースを2本買ってきて、1本を被験者にただでプレゼントします。

そして、作業が終わった後、両グループのサクラは、それぞれの被験者にこんな依頼をします。「私の出身地が、町おこしのために宝くじを発売することになったんだけど、よかったら君も協力して買ってくれないか?」 この宝くじの値段は、先ほどおごったジュースの2倍の値段です。ところが、グループBでは、Aの2倍の人がこの宝くじを買ったのです。

何か良いことをしてもらうと、お返しをしたくなる心理。これを心理学では「好意の返報性」と呼びます。スーパーなどで試食コーナーがありますね? 試食したお肉やお菓子を、ついつい買ってしまう。あれも返報性の原則を応用しています。

返報性の実験 その2

さて、リーガン博士は、さらに応用的な実験も行ないました。

グループCとDのサクラは、わざと嫌な人物を演じます。足を投げ出すなど横柄な態度をとったり、作業中に携帯で電話をかけ、通話相手を大声で罵ったりするわけです。そして、グループCはジュースをおごりませんが、グループDは被験者にジュースをおごり、それぞれ宝くじを買ってくれないかと最後にお願いします。

すると、グループCは、同じくジュースをおごられなかったグループAよりも宝くじの購入率が大幅に減りました。嫌な人から頼まれごとをされても、聞いてやりたいとは思いませんものね。

ところが、です。なんとジュースをおごられたグループDは、同じくジュースをおごられたグループBとほとんど購入率が変わらなかったのです。恐るべし、ジュースのパワー!

グループ態度ジュース寄付の受諾率
A普通おごらない普通
B普通おごる高い
C嫌な態度おごらない低い
D嫌な態度おごる高い

ヤクザやダメ男にどんどん貢いでしまう女性とか、DV夫の元に何度も帰ってしまう妻がいて、周りの人たちは「どうしてそんなひどい男と別れないのか」と不思議に思います。

おそらく、たまに示される優しさのせいで、返報性の原則が強烈に働いているのでしょう(おまけに、「この人を支えられるのは私だけだ」という、一種の貢献感も味わえますし)。

まずはこちらから好意を示す

これを人間関係に応用すると、どうなるでしょうか。

  • 人から好かれたかったら、まずこちらが相手を好きになり、こちらから先に好意を示すとよい。
  • 相手に嫌われていると決めつけ、こちらも相手を避けようとすると、相手には「悪意の返報性」が働いて、相手は本当にこちらを嫌いになる。

好きになるのは難しいけれど

とはいえ、苦手だなと思っている人をこちらから好きになるのは、なかなか大変ですね。無理に好きになろうとすると、かえってストレスがたまって、その人に接するのがますます嫌になってしまうかもしれません。

そんな場合には、好きになるというより、「相手のいいところを探す」ことを心がけてみましょう。一度に10個探しましょうなんていうとちょっと大変ですが、1日に1個でもいいし、場合によっては週に1個でもかまいません。

学校では、学級会や部活動などで、「友だちのいいところ探し」をやってみるのも面白いかもしれませんね。

大切なのは「必ずいいところがある」と思って探すことです。すると、必ず見つかります。そして、ちょっとだけその人への好感度が上がります。

そうしたら、少し勇気を出して、相手のいいところを相手に伝えてあげましょう。そうしたら、相手もあなたに対する好感度をちょっとだけ上げてくれます。あとはその繰り返しです。

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