2009年8月号
前回、「ほめる」をテーマにしましたが、「ほめてばかりはいられません。子どもが悪いことをしたときには厳しくしつけないと……」という感想をいただきました。確かにそうですね。
そこで、何回か「叱る」をテーマにお話しいたします。
迷子になった娘
私には、大学2年生と高校1年生の娘がいます。家内が次女を妊娠していた頃に、家族3人でディズニーランドに遊びに行きました。お昼頃になり、ピザでも食べようかと、夫婦してメニューに気を取られた一瞬の隙に、長女(3歳になる直前でした)がパーッと走り出し、人混みの中に消えてしまったのです。慌てた私たちはすぐにあとを追いましたが、どこにも姿が見えません。
おろおろしているところに、お掃除のお兄さんが、箒とちり取りを手に持ち、足にはローラーブレードを履いて登場しました。事情を説明すると、「大丈夫です。私のようなスタッフがたくさん巡回していますから、すぐに保護して迷子センターにお連れします。そうですね、あと40分ほどしたら、迷子センターの方においでください」とのこと。
迷子センターにて
ぼーっと待っていても仕方がないので、迷子センターに向かいました。うちの娘はいるかなと窓から中をのぞくと、いるわいるわ、どこからわいて出たんだというほどたくさんの子どもたち。それが、絵本を読んだり、ぬいぐるみで遊んだり、スタッフのお兄さんお姉さんとお遊戯したりして過ごしています。
我が長女は……いた! なんと、大好きなプーさんのビデオを見ながら、ゲラゲラ笑っているではありませんか! 私はカーッと頭に血が上りました。そして、連れてこられた娘に向かって、
黙っていなくなったらダメじゃないか!
……なんて怒鳴りつけませんでした。
いや、頭に血が上ったのは本当なんですが、娘が連れてこられるまでの数十秒の間に、幸いなことに私は冷静になることができました。
私は、元々怒っていたわけじゃありません。私は娘がどうにかなるんじゃないかと心配だったのです。もう二度と会えなくなるんじゃないかと不安だったのです。そして、心配や不安を私に与え、しかもそれを自覚しないで楽しく過ごしている娘に対して、罰を与えるために(あるいは復讐のために)怒りがわいてきたのだと気づきました。
実際の対応
そこで、私は娘に言いました。
薫ちゃん、楽しかったね~
実際、娘は至福の時を過ごしていました。娘が走り出したのは、ミッキーマウスを発見したからでした。そして、なんとミッキーに連れられて、迷子センターまでやってきたんだそうです!
それから、真顔になってこう続けました。
でも、薫ちゃんが黙っていなくなったから、お父さんもお母さんも、死ぬほど心配したんだよ。
薫ちゃんがケガしちゃうんじゃないかとか、もう会えなくなっちゃうんじゃないかと思って、悲しかったんだよ。
ここで、数秒間黙って娘の目を見つめて、私の心配や不安を娘にも味わってもらう時間を取りました。そして、
だから、もう黙って一人でいなくなったりしたら、いやだよ。
それから、
大好きな薫ちゃんとまた会えてうれしい!
と、ぎゅーっと抱きしめてやりました。
3歳前の子どもにどれだけ伝わったか分かりませんが、その後、現在に至るまで迷子になったことがありませんから、きっと分かってくれたんだろうなと思います。
叱る≠怒る
叱責は、相手をより良い状態に導くための教育支援の一つです。そして、「叱る」と「怒る」は違います。
怒りに我を忘れて怒鳴りつけるというのは、怒りにこちらが振り回されている状態であり、単なる鬱憤晴らしです。こちらの気は晴れるかもしれませんが、教育的な意味はほとんどないと言っていいでしょう。
それどころか、最近の子どもたちはストレス耐性が高くありませんから、考えなしに怒鳴ってばかりだと、かえって自信ややる気をなくしてしまうかもしれません。
せっかくの叱責が、無意味な鬱憤晴らしに終わってしまわないためにも、子どもの言動にカーッと頭に血が上り、怒鳴りつけたくなったら、次のことを心がけてみてください。
- いったんトイレにでも入って、頭を冷やしましょう。
- 怒りの原因になった別のいやな感情(私の場合は、心配や不安)に気づきましょう。
- これから相手にどう行動して欲しいか、どうしてもらったらうれしいかを考えましょう。
- どういう言い方、伝え方をしたら、こちらの気持ちや願いがうまく相手に伝わるかを計画しましょう。
- その計画に基づいて、怒りの原因となった気持ちと、願いを相手に伝えましょう。
次回も、効果的な叱り方について取り上げる予定です。
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