思うように部下が動いてくれない…。頑張って指導しているのに、やる気が上がらない。
あなたは、上司としてそんな抱えてはいませんか?
本記事では、心理学の観点から「部下のやる気を引き出す3つの関わり方」を具体的に解説します。
1 部下のやる気を失わせる「3つの落とし穴」を見直す
本章で扱う主なポイントは以下のとおりです。
- 「正論で指導する」が逆効果になる理由
- 「褒める=甘やかす」と誤解していないか
- 忙しさの中で「聴く姿勢」が失われていないか
部下のやる気を高める前に、まず避けるべき関わり方を知りましょう。
良かれと思っての対応が、逆に部下のモチベーションを下げてしまう場合があります。
ここでは、上司が陥りやすい3つの落とし穴と改善のヒントを紹介します。
1-1 「正論で指導する」が逆効果になる理由
上司が「正しい行動や態度」を伝えるのは当然の責任です。
しかし、人は自分の価値が否定されたと感じると、正しい指摘でも心を閉ざしてしまいます。
部下が失敗した直後は、自己効力感(=自分にはできるという感覚)が低下しています。
そのため、問題点を指摘する前に「悔しかったね」「気づいていたんだね」と共感の一言を添えましょう。
そのうえで「次はどうすればうまくいくか」を一緒に考える姿勢を見せると、部下は安心して行動を修正できます。
1-2 「褒める=甘やかす」と誤解していないか
「褒めると部下が調子に乗る」と考える上司もいますが、心理学では努力や過程を認める承認がやる気を引き出すと示されています。
「自分は成長できる」と感じると、人は前向きに挑戦するようになります。
逆に、「結果だけを評価する」「特別な時しか褒めない」という対応は挑戦意欲を奪います。
たとえば「準備を丁寧にしてくれて助かった」「最後まで責任を持ってくれたね」といった具体的な言葉をかけましょう。
ポイントは、「行動を特定して伝える」です。
1-3 忙しさの中で「聴く姿勢」が失われていないか
日々の業務に追われると、「聞いているつもり」で聞き流してしまう危険があります。
しかし心理学では、「傾聴」が信頼関係の土台だとされています。
上司に気持ちを理解されたと感じた部下は、安心感と自己肯定感を得て、再びやる気を取り戻します。
聴くときは次のポイントを意識しましょう。
- 相手の言葉を遮らない
- 相づちや復唱を適度に入れる
- 沈黙を恐れず、部下が話し出すのを待つ
2 部下のやる気を引き出す「3つの関わり方」
本章で扱う主なポイントは以下のとおりです。
- 1on1で「安心感」を与える
- 部下の強みと価値観を見極めて任せる
- 小さな成功体験を言葉で認める
やる気を引き出すには、叱る・褒めるといった単発の対応だけでなく、信頼に基づく関係構築が欠かせません。
心理的安全性を感じられる職場でこそ、部下は主体的に動けるようになります。
2-1 1on1で「安心感」を与える
心理学では、「感情を受け止めてもらうとストレスが軽減し、前向きな意欲が戻る」とされています。
1on1(1対1の面談)は、部下に安心感を与える絶好の機会です。
このとき、上司が一方的に評価や指示を伝えるのではなく、
「どう感じている?」「何か困っていない?」といった問いかけを意識してください。
評価ではなく対話を目的にすると、信頼関係が深まります。
2-2 部下の強みと価値観を見極めて任せる
人は「自分の得意分野」や「価値を感じる仕事」で力を発揮します。
上司が部下の強みや価値観に合った仕事を任せると、自然とやる気が高まります。
たとえば、緻密な作業が得意な人には品質管理を、対人スキルが高い人には顧客対応を任せるなど、「個の強み」を生かした配置が有効です。
また、「こうあるべき」と押しつけず、部下が大切にしている価値観を理解し尊重しましょう。
それが部下の自律心を育てます。
2-3 小さな成功体験を言葉で認める
「大きな成果」だけでなく、「小さな成功」を見逃さずに評価しましょう。
小さな達成を上司がすぐ認めると、部下は「見てくれている」と感じ、自己効力感が高まります。
「前回より説明がわかりやすかったね」「資料が丁寧にまとまっていたよ」など、具体的に行動を挙げて言葉にするのがコツです。
評価はすぐその場で伝えましょう。
後日まとめて言うより、その場の一言のほうがはるかに効果的です。
3 上司自身の「関わり方スイッチ」を入れる3ステップ
本章で扱う主なポイントは以下のとおりです。
- 「結果」ではなく「プロセス」を承認する
- フィードバックを「指導」から「対話」に変える
- チーム全体の「心理的安全性」を整える
部下の行動を変えるには、まず上司自身の関わり方を見直す必要があります。
以下の3ステップで関わり方を切り替えましょう。
3-1 「結果」ではなく「プロセス」を承認する
企業では成果が重視されがちですが、結果よりも努力や工夫の過程を認めるほうが、長期的にやる気を育てます。
たとえば次のような点を意識して承認しましょう。
- どんな動機で始めたか
- どんな工夫をしたか
- 困難をどう乗り越えたか
- どんな犠牲を払ったか
自分の頑張りを認められたと感じると、人は「次も頑張ろう」と思えるのです。
3-2 フィードバックを「指導」から「対話」に変える
心理学では、人は自ら考えて行動したときに最も意欲が高まるとされています。
上司が一方的に評価するだけでは、部下は受け身になりやすいもの。
フィードバックは「教える場」ではなく、「気づきを促す時間」と捉え直しましょう。
「なぜそうしたと思う?」「次はどんな方法が良さそう?」と質問して考えを引き出し、
「良い点に気づいたね」「私も同じように感じたよ」と共感を伝えると、部下の主体性が育ちます。
3-3 チーム全体の「心理的安全性」を整える
心理的安全性とは、「失敗しても責められない」「意見を言っても否定されない」と感じられる雰囲気です。
これが欠けると、メンバーは発言を控えたりミスを隠したりして、成長が止まります。
反対に、心理的安全性の高いチームでは、意見交換が活発で挑戦も増えます。
上司が率先して次のような行動をとりましょう。
- 発言に対して「面白い視点だね」と肯定的に反応する
- 失敗を責めず「何を学べたか」「次にどう生かすか」を話す
- 日常の気遣いに「ありがとう」を言葉で伝える
4 やる気が戻らない時に確認したい「環境と仕組み」
本章では、主に以下のポイントを扱います。
- 評価制度・目標設定・報酬体系の見直しポイント
- リモート・ハイブリッド環境での信頼構築のコツ
- 上司自身のストレスマネジメントも重要
どれほど上司が工夫しても、職場の仕組みそのものがやる気を下げている場合があります。
モチベーションは「人間関係」だけでなく、「制度」や「環境」にも左右されるのです。
4-1 評価制度・目標設定・報酬体系の見直しポイント
人は努力と報酬のバランスが不公平だと感じると、意欲を失います。
「公平さ」と「納得感」がある仕組みを整えましょう。
見直しのポイントは次のとおりです。
- 評価では結果だけでなく、努力やプロセスも基準に含める
- 報酬は金銭だけでなく、「承認」や「成長の機会」も重視する
- 目標は「難しいが少し頑張れば達成できるストレッチ目標」に設定する
これらを整えると、上司の言葉がより部下に響く職場になります。
4-2 リモート・ハイブリッド環境での信頼構築のコツ
リモート勤務では、顔を合わせる機会が減り、関係が希薄になりがちです。
「見られていない」「評価されにくい」と感じた部下は、やる気を失いやすくなります。
以下のような工夫でつながりを保ちましょう。
- 対面での1on1の頻度を増やす
- オンライン会議の冒頭に雑談の時間を設ける
- チャットで「ありがとう」「助かったよ」と短いメッセージを送る
4-3 上司自身のストレスマネジメントも重要
上司が疲弊していると、部下への気配りができなくなります。
リーダーの感情はチーム全体に伝染しやすいため、まず自分の心の安定を保ちましょう。
簡単にできるセルフケアの例です。
- グッド・スリー・シングス
寝る前に、今日あった「良い出来事」を3つ書き出す - 4-7-8呼吸法
4秒吸い、7秒止め、8秒かけて吐く呼吸を繰り返す - 自然との触れ合い
昼休みに公園を散歩したり、休日に自然の中で過ごしたりする
つらいと感じたら、早めに役割分担や専門家への相談を検討しましょう。
5 今日から始める!部下のやる気を高める1日1アクション
本章では、主に以下のポイントを扱います。
- 朝の一言で「安心感」を与える
- 「できている点」を具体的に言葉にする
- 「ありがとう」を意識的に増やす
どんなに理論を知っても、実践しなければ変化は生まれません。
短い言葉や行動の積み重ねこそが、部下のやる気を引き出します。
5-1 朝の一言で「安心感」を与える
1日の始まりに発する上司の一言は、チームの雰囲気を左右します。
「気分のプライミング効果」と呼ばれる心理作用により、最初の刺激(言葉や態度)がその後の感情や行動に影響するからです。
難しく考えず、「おはよう、昨日の対応ありがとう」「今日は○○を一緒に頑張ろうね」と、 短く肯定的な声かけを意識しましょう。
5-2 「できている点」を具体的に言葉にする
欠点を指摘するより、「うまくできている部分」を具体的に伝えるほうが成長意欲が高まります。
たとえば「報告書が整理されていて読みやすかった」「会議で他メンバーの意見をうまく引き出していたね」などです。
抽象的な「頑張ってるね」より、具体的な行動を認めましょう。
5-3 「ありがとう」を意識的に増やす
感謝の言葉は、最も簡単で効果的なモチベーションアップ法です。
上司が意識的に「ありがとう」を増やすと、部下は自分の貢献が認められていると感じ、意欲が自然と高まります。
大きな成果だけでなく、日常のちょっとしたサポートにも感謝を伝えましょう。
直接伝えられないときは、メモや付箋で伝えるのも効果的です。
まとめ|部下のやる気は「関わり方」で変わる
本記事では、心理学の視点から「部下のやる気を引き出す上司の関わり方」を紹介しました。
ポイントを振り返ります。
- 正論より共感を優先し、安心感を与える
- 称賛は「甘やかし」ではなく「成長支援」ととらえる
- 成果よりプロセスを評価し、対話的フィードバックを重ねる
- 制度・環境・上司の心の状態を整える
- 「1日1アクション」で信頼を積み重ねる
やる気のない部下を見ると、つい責めたくなります。
しかし、批判の前に上司自身のコミュニケーションを見直す必要があります。
上司が「聴き」「認め」「感謝する」姿勢を示せば、部下もチームも確実に変わります。
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参考文献・公式リソース
1. 「正論で指導する」が逆効果になる理由
- Bandura, A. (1977). Self-efficacy: Toward a unifying theory of behavioral change. Psychological Review, 84(2), 191–215.
- Deci & Ryan (2000). Self-determination theory and the facilitation of intrinsic motivation, social development, and well-being. American Psychologist, 55(1), 68–78.
2. 「努力や過程を褒めるとモチベーションが高まる」という主張。
- Dweck, C. S. (2006). Mindset: The new psychology of success.
- Mueller & Dweck (1998). Praise for intelligence can undermine children’s motivation and performance. Journal of Personality and Social Psychology, 75(1), 33–52.
3. 「聴く姿勢」がモチベーションを回復させる
- Rogers, C. (1951). Client-centered therapy.
- Edmondson, A. (1999). Psychological safety and learning behavior in work teams. Administrative Science Quarterly, 44(2), 350–383.
4. 「1on1で安心感を与える」との主張
- Google (2015). Project Aristotle: What makes a team effective?
5. 「強みに基づく配置がやる気を高める」
- Rath, T. (2007). StrengthsFinder 2.0.
- Deci & Ryan (2000).
6. 「心理的安全性が高いチームは成長する」
- Edmondson, A. (1999). Psychological safety and learning behavior in work teams. Administrative Science Quarterly, 44(2), 350–383.
7. 「グッド・スリー・シングス」や「4-7-8呼吸法」の効果
- Seligman, M. E. P. et al. (2005). Positive psychology progress: Empirical validation of interventions. American Psychologist, 60(5), 410–421.
- Weil, A. (2011). Spontaneous Happiness.
(タイトルと参考文献を除く文字数:4571字)

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