2024年3月号
今回は、人の欲求にはレベルがある、というお話です。ここが分かっていないと、せっかくの指導やアドバイスも役に立ちません。
相談・愚痴・弱音の動機
子どもであれ大人であれ、誰かに悩みを相談する人、愚痴をこぼす人、弱音を吐く人。この人たちの第一の動機、願いは、「問題を解決したい。」ではありません。
……という言い方は少し乱暴なので言い直します。もちろん「解決したい」という思いに嘘はありません。解決したいのです。しかし、それ以上に強力な動機、願いがあるということです。
それは、「分かってよ!」です。
- 私の気持ち、分かってよ!
- 私がそう感じる理由も分かってよ!
- だから、私がそう感じるのは当然だよって言ってよ!
人間の欲求にはレベルがある
人間にはさまざまな欲求、願いがあります。しかし、それらはすべて同じ重要度・優先度を持っているわけではありません。優先順位によってレベル分けされているのです。そして、レベル(すなわち優先度)の高い欲求を放ったらかしにしたままだと、レベルの低い欲求を満たそうとして関わってもなかなかうまく行きません。「それどころじゃない!」とはじかれてしまいます。
例を挙げましょう。暖かくなってお友だちと山登りに行くことになったとします。普段から運動していればいいのですが、私のように運動不足だとすぐに息が上がってしまいます。「いやぁ、疲れた。もうだめ。一歩も歩けない。」
山の管理者もよく分かっていて、素人が根を上げそうな場所には休憩用のベンチなどが用意されていたりしますね。「あそこに座って、お茶を飲みながらお菓子食べて、英気を養ってからまた登ろう。」そして2人して休み始めました。
と、下の沢の方からザザザザザ……と、クマザサが揺れる音がします。のぞき込んでみると、冬眠から覚めたツキノワグマが、のしのしと沢から参道めがけて登ってくるではありませんか!
さあどうしますか? 疲れたのです。休みたいのです。お茶したいのです。それは嘘ではありません。
しかし、それよりもさらに強力で重要な欲求があります。安全欲求です。つまり「死にたくない!」という欲求です。クマを見つけたとき、お友だちが「いや、クマなんかどうでもいい。今はお菓子を食べよう。」と勧めたとしても、きっとあなたはそんな言葉は無視して、お友だちの手をつかんで脱兎の如く逃げ出すはずです。「一歩も歩けない。」なんて言っていたにもかかわらず。
そして、逃げて逃げて、もうクマの姿が見えなくなって安全が確保されて初めて、二人はそこで倒れ込み、しばらく息を整えて休めるようになります。
まず気持ちを受け止めよう
援助や指導の場面でも、この「欲求の優先順位」が問題になります。
相手の「悩みを解決したい」という思いが優先順位のトップにあるなら、悩みを解決するためにアドバイスしたり、指導したり、修正したり、戒めたりすれば効果があります。しかし、それが優先順位のトップでないときには、こちらがいくら「正しい指導」「正しいアドバイス」をしても相手は受け取ってくれません。
相手の話をまずはじっくり最後まで聴いて、気持ちやそう感じる理由を理解しようと努めましょう。そして理解できたら、「そう。そういう気持ちなんだね。」「だからそんなふうに感じるんだね。」「そうだよね。」「本当だよね。」と寄り添うことを優先させます。相手が「分かってもらった!」と満足してくれて初めて、こちらの提案や指導が心に届くものだからです。
私たちはみんな子どもたちに幸せになってもらいたいと願っています。だからこそ早く悩みを解決してやりたいし、間違った行動や態度を修正してやりたいと思います。しかし、まずは話を聴いて気持ちに寄り添うことを意識したいですね。
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